目の前に壁がある。
色とりどり、いろいろな形のホールドが付いた壁がある。
登らない事だってできるぞ。
お前はどうする?
俺は、俺の腕が俺の指が、俺の肉が俺の血が、俺自身が登れると言う。
登る。
チョークを手に馴染ませる。よく馴染ませる。
スタート地点のホールドを両手で掴む。
両足もしっかり爪先で。
右手を離し次のホールドへ。
掴む。
左手も同じホールドへ。
しっかりホールドできねぇ。
指先でしか体を支えられない。
肉がのびる。
指の第一と第二関節が誰にも聞こえない悲鳴を上げる。
すぐさま次のホールドへ。
右手を伸ばす。
体が捩じれる。
ホールドの感触を感じた。
ザラザラしてて、ちょっと力をいれてやれば掴めるホールドだった。
落ちた。
腕がパンパンになってる。
血が疲労を運んできた。
指が伸びきって関節が痛む。
掴めなかったホールドを眺める。
綺麗な緑色のホールドだ。
俺のチョークが白く残ってる。
ザラザラしてたな。
手にまだあの感触が残ってる。
俺は腕を伸ばしてホールドを掴む。
あの緑色のホールドは俺の心を掴んで離さない。
来週の木曜日にまた来よう。
その時はオマエをしっかり掴んで、また次のオマエを掴んでやるんだ。
オマエが相手なら永遠に続くこのLOOPも苦じゃないかもな。
ザラザラしてたな。