大御所の写真家が道端の雑草を撮ってる。
センス抜群。
お前は何してんだ?と眼鏡の越しの写真家の目が言う。
俺に残されてる時間はそんなに多くはないぞ。
2010.6.23
目の前に壁がある。
色とりどり、いろいろな形のホールドが付いた壁がある。
登らない事だってできるぞ。
お前はどうする?
俺は、俺の腕が俺の指が、俺の肉が俺の血が、俺自身が登れると言う。
登る。
チョークを手に馴染ませる。よく馴染ませる。
スタート地点のホールドを両手で掴む。
両足もしっかり爪先で。
右手を離し次のホールドへ。
掴む。
左手も同じホールドへ。
しっかりホールドできねぇ。
指先でしか体を支えられない。
肉がのびる。
指の第一と第二関節が誰にも聞こえない悲鳴を上げる。
すぐさま次のホールドへ。
右手を伸ばす。
体が捩じれる。
ホールドの感触を感じた。
ザラザラしてて、ちょっと力をいれてやれば掴めるホールドだった。
落ちた。
腕がパンパンになってる。
血が疲労を運んできた。
指が伸びきって関節が痛む。
掴めなかったホールドを眺める。
綺麗な緑色のホールドだ。
俺のチョークが白く残ってる。
ザラザラしてたな。
手にまだあの感触が残ってる。
俺は腕を伸ばしてホールドを掴む。
あの緑色のホールドは俺の心を掴んで離さない。
来週の木曜日にまた来よう。
その時はオマエをしっかり掴んで、また次のオマエを掴んでやるんだ。
オマエが相手なら永遠に続くこのLOOPも苦じゃないかもな。
ザラザラしてたな。
2010.6.22
夕焼けが綺麗だった。
Hasselbladに120mmで一枚、50mmで2枚撮る。
もうあの時間は終わってた。
D700に20mmで2枚撮る。
すっかり終わった。
この時間が好きだと妻が言った。
そんな彼女を撮った。
2010.6.21
ふと、そんな事を考えている時に見た事もない虫が飛んできた。
手元にあったG10を手にシャッターを押す。
押す、押す、押す。
構図を変えてまた押す。
虫が飛ぶ。
狭い部屋を追いかけてまたシャッターを押す。
露出を変えて押す。
逃げてしまう。
シャッターを押せ。
さっきまで考えていた事なんか忘れてしまった。
虫が窓の外に飛んで行った。
あいつはどこから来たのか あいつは何者か あいつはどこに行くのか
2010.6.5
ヤツは独りだ。
いつも独りだ。
仲間はいない。
ヤツは独りで死ぬつもりだ。
アイツの事を知りたかった。
アイツは独りで死ぬつもりだ。
俺はお前が死ぬところ見届けさせてもらうよ。
アイツが独りで死んでしまう。